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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)8512号 判決 2000年7月26日

第八五一二号事件原告

株式会社ヤナセ

ほか一名

被告

川本紗致代

第五七七号事件原告

富士火災海上保険株式会社

被告

株式会社ヤナセ

ほか一名

主文

一  平成一一年(ワ)第八五一二号事件被告は、同事件原告株式会社ヤナセに対し、金五六万八七四二円及びこれに対する平成一〇年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  平成一一年(ワ)第八五一二号事件被告は、同事件原告千代田火災海上保険株式会社に対し、金三三万九〇〇六円及びこれに対する平成一〇年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  平成一二年(ワ)第五七七号事件被告らは連帯して、同事件原告に対し、金三万〇〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  各事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を平成一一年(ワ)第八五一二号事件原告ら及び平成一二年(ワ)第五七七号事件被告小川雅央の負担とし、その八を平成一一年(ワ)第八五一二号事件被告及び平成一二年(ワ)第五七七号事件原告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  平成一一年(ワ)第八五一二号事件

1  平成一一年(ワ)第八五一二号事件被告は、同事件原告株式会社ヤナセに対し、金七八万一九三六円及びこれに対する平成一〇年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  平成一一年(ワ)第八五一二号事件被告は、同事件原告千代田火災海上保険株式会社に対し、金三七万六六七四円及びこれに対する平成一〇年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  平成一二年(ワ)第五七七号事件

平成一二年(ワ)第五七七号事件被告らは連帯して、同事件原告に対し、金三〇万〇〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  訴訟の対象

民法七〇九条(交通事故、物損)、商法六六二条(保険代位)

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

1  交通事故の発生(甲一)

(一) 平成一〇年六月五日(金曜日)午後二時五〇分ころ(雨)

(二) 奈良市三条大路一丁目一番一号先交差点

(三) 平成一二年(ワ)第五七七号事件被告小川雅央(以下、単に小川という。)は、普通乗用自動車(大阪五〇〇さ四一一五)(以下、小川車両という。)を運転中

(四) 平成一一年(ワ)第八五一二号事件被告川本紗致代(以下、単に川本という。)は、軽四乗用自動車(奈良五〇け一二八八)(以下、川本車両という。)を運転中

(五) 信号機がある交差点内で、小川車両と川本車両が衝突した。

2  責任(弁論の全趣旨)

小川は、信号待ちをした後、対面信号が青信号にかわったが、交差点内の安全を十分に確認しないで発進したため、右から進行してきた川本車両の左側面に衝突した過失がある。したがって、小川は、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。小川は、平成一一年(ワ)第八五一二号事件原告株式会社ヤナセ(以下、単にヤナセという。)の従業員であり、業務中に本件事故を起こした。したがって、ヤナセは、民法七一五条に基づき、損害賠償義務を負う。

川本は、対面信号が赤信号にかわったにもかかわらず、交差道路の安全を十分に確認しないで進行したため、左から進行してきた小川車両の前部に衝突した過失がある。したがって、川本は、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

3  保険契約の締結(弁論の全趣旨)

(一) ヤナセは、平成一一年(ワ)第八五一二号事件原告千代田火災海上保険株式会社(以下、単に千代田火災という。)との間で、小川車両を被保険自動車として、自動車保険契約を締結していた。千代田火災は、ヤナセに対し、平成一〇年一一月一六日、車両保険金として、修理費の一部三七万六六七四円を支払った。

(二) 平成一二年(ワ)第五七七号事件原告富士火災海上保険株式会社(以下、単に富士火災という。)は、川本との間で、川本車両を被保険自動車として、自動車保険契約を締結していた。富士火災は、川本に対し、平成一〇年九月二日、車両保険金として、三〇万円を支払った。

三  ヤナセ、千代田火災の主張(平成一一年(ワ)第八五一二号事件の請求の原因など)

1  事故態様

小川は、信号待ちをした後、対面信号が青信号にかわったので、先頭で発進し、直進したところ、川本車両が右から赤信号を無視して進行してきたため、川本車両の左側面に衝突した。

2  損害

ヤナセは、小川車両を顧客に販売し、本件事故当時、納車の準備のため、奈良営業所から生駒営業所に回送する途中であった。

ところが、本件事故によって小川車両が損傷を受けたため、小川車両を納車することができなくなった。

そこで、同一車種を仕入れ、顧客に納車することとし、仕入れ価格一七五万八六一〇円で、あらためて同一車種を仕入れた。

また、小川車両は、ヤナセ中古車部に六〇万円で下取りさせた。ほかに、千代田火災から車両保険金三七万六六七四円を受け取った。

したがって、ヤナセの損害は、一七五万八六一〇円から下取り価格六〇万円と車両保険金三七万六六七四円を控除した七八万一九三六円である。また、千代田火災は、三七万六六七四円の損害賠償請求権を取得した。

四  富士火災の主張(平成一二年(ワ)第五七七号事件の請求の原因など)

1  事故態様

川本は、川本車両を運転し、対面信号が青信号であったので交差点に進入したところ、先行車両が交差点内でエンストを起こして停止したため、その後ろに停止した。対面信号が赤信号にかわったころ、先行車両が発進し、川本車両も続いて発進した。交差道路左方の第二車線上の車両が進めと手で合図をしてくれた。ところが、小川車両が前をよく見ないで交差点内に進入してきて川本車両に衝突した。

2  損害

ヤナセの損害は争う。

ヤナセは顧客に対し小川車両を販売したのだから、顧客が所有権を有している。また、損害は、修理費四七万四四五三円及び適正な評価損に限られるべきである。

第三事故態様及び過失相殺に対する判断

一  証拠(甲二、八、一〇ないし一二、乙四、小川と川本の供述)によれば、次のとおり認めることができる。

1  本件事故現場の状況は、別紙図面のとおりであるが、東西道路と南北道路が交わる交差点である。信号機が設置されている。

2  小川は、東西道路の西行き車線の第一車線を進行してきたが、対面信号が赤信号であったので、先頭で、いったん停止をした。第二車線にも、信号待ちのため、車両が停止をしていた。

対面信号が青信号にかわったので発進したが、第二車線の先頭車両は、発進した後、減速し、ゆっくり走行していた。これを見て不思議に思った。

そのまま走行を続けたところ、右前方約六mの地点を南に向かって走行している川本車両を見つけ、危険を感じ、急ブレーキをかけた。

しかし、約五m進んだ交差点中央付近で、小川車両の前部と川本車両の左側面が衝突した。

小川車両は、発進してから衝突するまで約一五m進んでいる。

3  これに対し、川本は、南北道路の南行き車線の第一車線を進行し、対面信号が青信号であったので、前方約六mの先行車両に続いて交差点に進入したところ、交差点中央付近で、先行車両がエンストを起こして停止したため、その後ろに停止したが、その後、対面信号が赤信号にかわり、先行車両が再び発進し、川本車両も続いてゆっくり発進し、このとき交差道路左方の第二車線上の車両が川本車両の通過を待ってくれたにもかかわらず、小川車両が交差点内に進行してきて衝突したと主張し、同旨の供述をする。

しかし、川本車両の先行車両がある程度のスピードで走行中に交差点中央で突然停止し、対面信号が赤信号にかわったときに再び発進したというが、通常このような事態が起こることは考えがたく、突然の停車を窺わせる事情も何も認められない(例えば、いつブレーキランプが点灯したのか、点灯しなかったとしたら追突の危険がなかったのかなど)ので、不自然な感じが免れない。仮に、先行車両が交差点中央で突然停車をしたら、これを避けて進行すればよいし、通常ドライバーはそのような行動をとると考えられるにもかかわらず、川本は何らの対応もしておらず、この点からも、不自然な感じが免れない。また、川本の供述によれば、対面信号が赤信号にかわったときに交差点中央付近から発進したことになるが、この交差点の信号周期にはいわゆる全赤状態があるはずであることや比較的大きい交差点であることを考えると、川本車両が前記のとおり発進したとすれば、青信号で発進した小川車両と衝突しないのではないかとの疑問がある。また、川本の供述によっても、川本車両の後続車両の動静が明らかでなく、周囲の状況を合理的に説明しているとはいえない。

いずれにしても、川本の供述は、不自然不合理であるといわざるを得ず、これを採用することはできない。

また、西行き車線の第二車線の先頭車両が少なくとも発進後減速したことについては、川本の供述と小川の供述がほぼ一致するから、これを認めることができる。しかし、川本が第一車線の安全を確認したかどうか、十分に減速して進行していたかどうかについては、これを窺わせる供述がなく、川本は第一車線の安全を十分に確認しないで、また、十分に減速しないで進行したと認めざるを得ない。

二  これらの事実をもとに、小川と川本の過失割合を検討する。

小川は、隣にいた先頭車両が発進後減速し、不思議と思ったのであるから、もっと周囲の状況に注意すべきであったといえる。しかし、先頭車両が隣にいたため右方の見通しが十分でなかった可能性があるし、そもそも、対面信号が青信号にかわってから発進しているのであるから、その過失は小さいというべきである。

これに対し、川本は、その供述を採用することができないから、交差点に進入した経過が明らかではない(例えば、青信号で進入したのか、赤信号で進入したのかも明らかではない。)。また、たとえ、西行き車線の第二車線の先頭車両が減速をしてくれたとしても、西行き車線の対面信号が青信号にかわり、車両が第一車線を進行してくることは容易に予想できるにもかかわらず、第一車線の安全を何ら確認していないし、十分に減速して走行していない。したがって、川本の過失はきわめて大きいというべきである。

これらの事情を考慮すると、小川と川本の過失割合は、一〇対九〇とすることが相当である。

第四損害に対する判断

一  証拠(甲三ないし五、七、一三ないし一七、乙一、証人江良)によれば、次の事実を認めることができる。

1  ヤナセは、顧客との間で、平成一〇年五月二三日、小川車両を一九一万三三四〇円で販売する旨の売買契約を締結し、売買代金の一部として諸費用分を受け取っていた。

2  小川は、小川車両を購入した顧客に対し小川車両を納車するため、奈良営業所から生駒営業所に小川車両を回送する途中、本件事故にあった。

3  小川車両は、本件事故により、修理費四七万四四五三円を要する損傷を受けた。そのため、ヤナセは、小川車両を顧客に納車することを断念した。

そこで、ヤナセは、同一車種を仕入れ、顧客に納車した。仕入れ価格は、本体価格が一三六万八〇〇〇円であり、これに消費税、税金、保険料などを加えると、一七五万八六一〇円であった。

4  また、ヤナセは、小川車両を、ヤナセ中古車部に六〇万円で下取りをさせた。この下取り価格は、ヤナセ中古車部がその取引先である事故車の販売を扱っている業者と相談して決めた金額であった。実際に、その後小川車両は、平成一〇年一二月、約五二万円で売却された。

5  日本自動車査定協会は、小川車両を、事故現状で七四万一〇〇〇円と査定した。

二  これらの事実によれば、ヤナセは、本件事故により、小川車両を納車することができなくなり、あらためて同一車種の車両を仕入れて納車したのだから、仕入れ価格から下取り価格と車両保険金を控除した残金の損害を被ったと認めることが相当である。もっとも、下取り価格については、現実の取引の実情をもとに定めているから、一定の合理性を有するとはいえるが、必ずしも客観的な基準によっているわけではない。そこで、下取り価格については、七五万円と認めることにする。したがって、仕入れ価格一七五万八六一〇円から下取り価格七五万円と車両保険金三七万六六七四円を控除した残金六三万一九三六円が損害と認められる。

また、千代田火災は、三七万六六七四円の損害賠償請求権を取得したと認められる。

三1  これに対し、川本は、小川車両の所有者は顧客である旨の主張をする。

しかし、車検証の所有者が顧客名義とされ(甲七の一)、売買代金の一部が支払われていたとしても、ヤナセが現実に小川車両を支配管理し、納車する前であったとすれば、ヤナセも小川車両の実質的な所有者であったというべきであり、川本の主張は採用できない。

2  また、川本は、小川車両の損害は修理費四七万四四五三円(乙一)に限られるべきであると主張する。

しかし、物理的には修理が可能であったとしても、ヤナセが、納車前の車両を修理して顧客に対し修理後の車両を納車することは現実的には不可能であり、これをヤナセに強いることは相当でないから、これを前提として損害を認定することは合理的とはいえない。したがって、川本の主張は採用できない。

念のために付け加えると、小川車両が納車前の新車であったことを考慮しても、何ら特別損害にはあたらない。

第五結論

したがって、川本は、ヤナセに対し損害六三万一九三六円の九割相当額である五六万八七四二円を、千代田火災に対し三七万六六七四円の九割相当額である三三万九〇〇六円を支払うべきである。

また、小川とヤナセは、富士火災に対し、三〇万円の一割相当額である三万円を支払うべきである。

(裁判官 齋藤清文)

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